植栽デザイナーさんへインタビュー。 「マンションに鳥や蝶を呼ぶ」植栽計画とは?
「ザ・パークハウス 富岡門前仲町」は、門前仲町の落ち着いた街並みに溶け込むよう計画された植栽も魅力のマンションです。
植栽計画を任されたのは、アゴラ造園株式会社の植栽デザイナー・齋藤さん。
アゴラ造園は、陸上競技場や公園・小学校などの植栽の施工を行うほか、区立庭園の管理運営、マンションや戸建て・団地など住宅の設計・施工を行っている会社で、三菱地所レジデンス指定の造園会社の一社。
これまでにも何物件か、同社マンション植栽の設計・施工・管理までを任されています。
普段あまり注目されることが少ないマンションの植栽ですが、周辺の景観にも好影響を与えますし、外観の良し悪しにも影響して、マンション自体の価値を高めてくれる重要な役割を担っています。
今回は、どんな植栽計画で、どんな樹木が、どんな理由で選ばれたのかなど、齋藤さんにお話をうかがいました。
※上の写真はアゴラ造園株式会社 齋藤様 同社にて撮影
こちらの記事をまとめると…
■三菱地所レジデンス独自の緑化計画、「ビオネットイニシアチブ」とは?
■マンション内に3つの植栽エリア。建設地にもともとあった景石を活かした中庭も
■住む方へ向けて想いを込めたこだわり。約20種の木々が彩る四季折々の景観
三菱地所レジデンス独自の緑化計画、「ビオ ネット イニシアチブ」とは?
齋藤さん:
このマンションの植栽計画についてお話しする前に、まずは三菱地所レジデンスさんの緑化計画である「ビオ ネット イニシアチブ」についてお伝えできればと思います。
齋藤さん:
「周辺環境との連携を図りながら、その地域の自然環境の保全や、生物多様性に貢献する緑化計画」のことなんですが、マンション一棟で緑化を考えるのではなく、複数あるザ・パークハウスを「地域の公園・緑地と一連のグリーンスポット」のようにとらえて、地域の植生や生き物を守ることを考えています。
例えば、近くの公園から鳥や虫たちが休憩しに来られるような工夫をしています。
長い距離を飛べない鳥たちのために、都市のグリーンスポットをマンションの緑で繋ぐイメージです。
2015年から数年かけてじっくり取り組んできた成果もあり、ビオ ネット イニシアチブを導入したザ・パークハウスは全国で200物件を超えたようです。
齋藤さん:
ビオ ネット イニシアチブの具体的なポイントは5つで、『守ること。つなぐこと。減らすこと。活かすこと。育てること。』
順にご紹介しますと・・・
『守ること。』は、侵略的外来種を採用せず、いきものの多様性を守ること。
行政が定める特定外来種や要注意外来種を使用せずに、計画を行うことが大前提になっています。
『つなぐこと。』は、周辺地域との緑のネットワークを考えること。
マンションの敷地にもともとあった植物や、すぐ近くの八幡堀遊歩道、富岡八幡宮など、500m~1kmほどにある緑地に実際に行って調査して、周辺と連動する種類の樹を積極的に採用しています。
先ほどの「鳥たちの休憩場所になるように」というお話ですが、特に三菱地所レジデンスさんが呼びたいと目標にしているのが、シジュウカラという白と黒の小さな鳥。
スズメくらいの大きさのかわいい鳥なのですが、1回100mほどしか飛ばないんです。
▲1枚目: 八幡堀遊歩道
※ザ・パークハウス 富岡門前仲町から道路上の距離約190m、直線距離だと100mほど
2枚目: シジュウカラ
齋藤さん:
そこで、マンションにどんな樹を植えるかが関わってくるのですが、シジュウカラが好きなカエデ類などを選ぶことで、緑地から緑地への休憩地点になって、それまで行けなかった少し遠くの公園にも飛んでいけるようにと考えています。
加えて、5種類の蝶を呼ぶことも目指しています。同じように、蝶も300m程度しか積極的に動きません。
鳥や蝶がいろいろな場所に行けるようになることで、草や花の種が運ばれて植物の多様性が生まれ、それを食べる生き物も生きていく、という考え方なんです。
▲この土地の植生を大切にしつつ、鳥や蝶たちにもやさしい“緑のネットワーク”づくりも進める植栽計画なんですね!
齋藤さん:
『減らすこと。』は、病害虫に強く、自然樹形の美しい樹種を採用し、薬剤散布や剪定頻度を低減すること。
例えばサクラは毛虫がつきやすいですし、うどんこ病という病気になりやすいマサキ類も美観を損なう場合があるので基本的には採用しないようにしています。
やはり虫や病気が発生しやすい樹種は管理の頻度が高くなるので、注意して計画しています。
『活かすこと。』は、樹木の自然樹形の美しさを活かすこと。
そのマンションの植栽スペースの位置や広さと、建物や周辺との関係を考慮しながら、樹種やサイズを決定していきます。
「ザ・パークハウス 富岡門前仲町」の場合、メインの植栽帯の樹々が成長して建物の壁に当たってしまう可能性や、道路を歩く人の目線を遮ってしまうことの無いように、「自然樹形が横に広がりにくい」「成長速度が緩やか」な木を配置するように心がけました。
成長速度が速い樹木は、剪定管理の頻度が高くなるため、徐々に樹形のバランスが悪くなったりして将来的にあまり良い景観にならない懸念があるんです。
▲メインの植栽エリアは図面の右下あたりで、エントランスから坪庭・ラウンジを囲むように配置。
赤みのある幹肌が美しく細い枝が伸びるヒメシャラ、紅葉が美しくシジュウカラが好きなカエデ類、葉のさわやかなソヨゴを採用する計画だそう。
美しさだけでなく、メンテナンスのしやすさ、周辺の動植物のこと、いろいろなことを考えて選ばれているのは驚きでした。
※画像1枚目: 敷地配置イメージイラスト 画像2枚目: エントランス完成予想CG 画像3枚目: ラウンジ完成予想CG
齋藤さん:
最後の『育てること。』は、地域に受け継がれてきた植生や日本の在来種を大切にすること。
ちょっと専門的な話になりますが、文献調査として「東京都潜在自然植生図」と照らし合わせますと、このマンションの計画地の潜在自然植生、つまり人の手の入っていない昔からの植生は「タブノキ・イノデ群集」、また人間による影響が加わってできた代償植生は、「ムクノキ・ミズキ群落」にあたります。
その植生を構成する高木層・亜高木層・低木層・草木層を確認し、樹木の特性や物件のコンセプト性と照らし合わせ。計画に取り入れるか検討します。
本物件では、潜在自然植生種としてヤツデやヤブランを。代償植生種としてイロハモミジを採用し、植栽計画に取り入れました。
古来からあることと、地域に馴染みやすい樹種ということを踏まえて、マンションならではの視点で採用して良いかを考えながら計画しています。
▲三菱地所レジデンスが作成している、ビオ ネット イニシアチブに関する資料を見せてもらいました。
潜在自然植生についても調べてあり、東京都の中だけでもいくつかの分類に分かれていることがわかります。
マンション内に3つの植栽エリア。建設地にもともとあった景石を活かした中庭も
――― 「ザ・パークハウス 富岡門前仲町」の植栽プランは、どのような感じになっていますか?
齋藤さん:
この物件はかつて材木店があった場所でして。
ほかのマンションではあまり入れない樹ですが、材木として使用される「アスナロ」という針葉樹を各所に配置して、この土地ならではの記憶を継承する計画としたことも特徴です。
また、メインの植栽は正面側ですが、エントランスホールからも見える敷地北側にもお庭を設けています。「コートヤード」といって、日陰をささやかに彩る和の庭としました。
▲デザイン提案がまとめられたコンセプトシート。
全体の計画や、どこにどんな種類・大きさの樹木を置くのかが書かれています。
中庭は中央の上あたり、緑の部分です。
齋藤さん:
実はこの中庭には、マンションが建つ前の材木店にあった石の灯籠(とうろう)や手水鉢や景石などを配置する予定なんです。元々あった物を新しい空間に用いることで、かつての場所の記憶を残しました。
▲さきほどの資料には、その石の配置まできちんと示されています。
いくつかあった中から、これは残したいというものを厳選して、配置を考えているそう。なんでも新しく作るのではなく、既存の良いものをブラッシュアップして使おうというデザインの考え方、素敵です。
齋藤さん:
そのほか、屋上緑化スペースの「ルーフガーデン」もあります。
住民の方が立ち入る場所ではないですが、行政で決められた緑地面積を確保しつつ、生物多様性に配慮した植栽構成としています。
全面にコウライシバの芝生張りになっていて、そこにシロツメクサやヘビイチゴなど6種の草花を加えた美しい草地を創る予定です。
鳥たちなど、色々ないきものを呼べるスペースでもあります。
マンションに住む方へ向けて、思いを込めたこだわり。約20種の木々が彩る四季折々の景観
――― そのほか、こだわったポイントはありますか?
齋藤さん:
私がこだわったのは、四季折々の変化です。
マンションの植栽は公園などとはまた違って、そこに住む方が毎日見る場所なので、帰る時・出かける時に、毎日景観が少しずつ変わっていく様子を楽しんでいただけるといいなと思っています。
そのために採用した樹木は、中高木が8種類・低木で12種類ほど。
メインの沿道側には、季節毎に花を咲かせる落葉樹を入れています。
視線の高さには4~5月ごろピンク色の花が咲くツツジ類、ヒメシャラは夏の始めの6~7月頃に白い花を咲かせて秋にはオレンジに紅葉、その脇のイロハモミジは秋に赤く紅葉します。
▲「ザ・パークハウス 富岡門前仲町」に植えられる植物の一例。
イロハモミジ、ソヨゴ、サツキツツジ、フィリフェラオーレアと、季節ごとに彩りが変わります。
齋藤さん:
もうひとつのこだわりは、正面エントランスの両脇にある2本の樹です。
この2本は4mと4.5mと、敢えて他より大きなものを選んでいます。「ゲート」として、エントランスで帰宅を迎え入れる存在になればという気持ちで採用しました。
▲正面エントランス両脇の大きな樹木は、住まいのゲート的な存在。
「毎日ここを通る度にON/OFFの切り替えができて、木々の変化に四季の移ろいを感じていただけると嬉しいです」と齋藤さん。
齋藤さんのお話、いかがでしたか?
従前の材木店を解体したのが2年前。
その際に引き上げた灯籠や景石は、現在アゴラ造園さんで大切に保管されて出番を待っているとのことで、植栽計画に対する情熱を感じました。
ここに住む方はもちろん、地域や周辺環境にも配慮したマンションづくりをしているのですね。
植栽も含めて、マンションの完成がさらに楽しみになりました!
※1 ビオ ネット イニシアチブのイメージ画像は、実在する地域や実際の建物ではありません。また、実際に特定の生物が生息および飛来することなどを保証するものではありません。
※完成予想CGや敷地配置イラストは、計画段階の図面を基に描き起こしたもので実際とは異なります。植栽は、特定の季節や入居時の状態を想定して描かれたものではありません。計画地内だけを描いているため、周辺の建物・道路等は描かれていません。
住宅ライター
野村 綾乃
ラジオレポーター時代に“取材の面白さ”にハマり、フリーライターに。構成作家、住宅情報誌のライターとして活動中(かれこれウン年)。1000以上の物件を取材した経験を基に楽しくレポート!
住宅ローンアドバイザーでもある。